八高線電化開業10周年にあたり・・・



八高線気動車終焉のころ


10年…、その歳月の重みを感じて…






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東京近郊区間にありながら、時代の波から取り残されていた八高線。

旧式の赤い気動車が紫煙をくゆらせながら行き交う。

そんな八高線にも時代の波は遅からずもやってきた。

何がそうさせたのか。川越線、相模線…。似たシチュエーションの路線は皆、変わっていった。

だが、八高線は今の今まで国鉄のにおいを残したまま。


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狭い駅構内で気動車が交換する。

一時の静寂を突き破ったあとに残るのは鼻につくヂーゼルエンジンの排気だけ。

ふと、目を横にやれば側線に貨車が止まり、荷物の積み卸し中だ。

列車、駅舎、跨線橋、側線、貨車…。今となってはその全てが思い出である。

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古めかしい運転台には無骨な機器が並ぶ。

これを操るその姿。鉄道員と言わずして何と言おうか。



手近にディーゼルカーに乗れる八高線が好きだった。

ディーゼルカーの魅力に引き込んでくれた35系気動車とももうすぐお別れだ。

別に何があるわけでもなかった。

ただ、その姿を全車撮ってみたいと思ったのだ。


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振られることは分かっていた。それでも言わずにはいられなかった。

言わない方が良かったのだろう。でも、もう遅い。

はじめて女性に”好きです”と告白する。

だが、”好きです”と伝えただけで、どうすると言うことでもなかった。

”ごめんなさい”

たった6文字の言葉が突き刺さる。

自分を鏡で見ればそんなことは明白だった。


自分を真綿でくるみ生きてきた。こんな些細な言葉に傷つく。

振られる、どうの以前に、そんな自分に悔しいのかもしれない。


自分では決して器用な人間ではないと思う。

器用に生きようすればするほどそうでない方に進むように思う。

そんな姿を見るにつけ、本当に不器用な人間だとつくづく思う。

不器用な人間は不器用な人間なりに勝手に生きていれば良かった。

他の人を巻き込む必要はなかった。

相手にも悪いことをしたことだろう。

悪い癖でもある。いつまでたってもこの癖は直らない。


そんな自分の心を何かで紛らわせたかったのかもしれない。

根っからの乗り物好きである僕を八高線はいやしてくれる。


八高線の車両達を撮ろう。

のんべんだらりと何するわけでもなく生きていた。自分で何かをしたかった。

ダイヤ改正まであと2ヶ月。馬鹿の一つ覚えのように八高線通いが始まる。

高校2年の冬のことである。


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高麗川駅にて。


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八高線の方向幕は通常”普通”表示を出したまま。

それ以外見たことのない方も多いだろう。

しかし、中には粋な車掌さんがいて、方向幕を使用していた。

そんな証拠写真でもある。


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出発信号機には”あお”が灯り、もうすぐ発車だ。


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駅撮りがほとんど。構図、ピント、露出、光線状態。その全てが適当である。

否、”理解できなかった”という方が正解だろう。

ただ、がむしゃらにシャッターボタンを押していた。

そんな中、きれいな走行写真が残っていた。ただ、これ1枚だけでもある。


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去る者は何も言わず。

冷房付きの新しいディーゼルカーにみんな興味津々。


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今日は珍しく全面補強なしの車両同士での交換だ。

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この地に来る前には相模線で活躍していた車両たちもいた。

そんな証拠写真。茅ヶ崎運転区。1987年。


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寒冷地仕様車である500番台。もとは新潟地区で活躍していた。

しかし、弥彦線、越後線の電化で新潟の地を追われ、八高線で活躍することになる。


しかし、それも今日までだ。


激しい雨が降り続く。

”ご苦労様”と言うにはまだ早い。

まだ、君には仕事が残っている。

車庫に入庫するまでは言うまい。

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いつもの風景が繰り広げられる。今日で最後。そんなことは彼等には関係ない。


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今日で君ともお別れだ。


華やかしいセレモニー会場も準備された。明日はダイヤ改正日。

お別れにはあまりに寂し過ぎる、冷たく激しい雨が降り続く。

その片隅で、君は何を思いそこにいるのか…。





もう、この場にいることが出来なかった。いたたまれなかった。

いたくなかった。信じたくもなかったのかもしれない。

”事実”を飲み込むという当たり前のことができなかったのだろう。

これを最後のお別れにして、………帰ろう。

最後の最期まで見届けようと思っていたが、そんなことはできなかった。




そのまま、川越線の一乗客となった僕は、何も考えられないまま列車に揺られていた。

行き先は決められない。帰ることすらも出来なかった。

ただ、空にさまよう雲のように列車に揺られていた。



どのくらい列車に揺られたのだろう・・・。









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八高線 289D列車 23:13八王子発 高麗川行き


最終列車。



明日の始発列車になるための車両達が滞留していた、西留置線。

そこには、たった3両の気動車が最後のアイドリングを奏でる。

高崎発八王子行き最終列車286D列車の折り返しとなる289D列車。


286D列車が到着した。おもむろに数人の操車掛。

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通常は見られない作業が行われる。

そう、留置線にいる気動車達はもうここには用はないのだ・・・。


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そそくさと準備は進む。貫通扉は開けられ、ジャンパ線もいつでも取り外せる状態だ。


ガッシャーン!!





八高南線最終列車。289D。

5両編成に仕立てられた列車は、もう歩むことのない道を往く・・・。

気動車の奏でるアイドリングにどこか悲しさが漂うのは気のせいか。

別れを惜しむファンの熱気にかき消される。




八高南線最終列車。

発車まで、あと3分。



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あれから10年。その全てが思い出である。




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